『今昔続百鬼 雲』読了感想

京極夏彦の妖怪小説『今昔続百鬼 雲』を読了。本作は「百鬼夜行シリーズ」のスピンオフ的な短編集だ。
3年前からKindle百鬼夜行シリーズを読み始めたものの、平日の昼休みにしか読んでいないこともあり、まだすべては読み切れていない。


◆ 山梨の伝説

京極作品で山梨が登場するのは、『塗仏の宴』以来だろうか。
本作には、山梨にまつわる伝説が登場する話があり、妙な親近感を覚えた。

……というか勤務地でした。韮崎に河童が出るとは知らなかった。

山梨に限らず、地方に残る伝説は「ただの昔話」ではなく、その土地の人々の記憶や歴史、恐れや願いが滲んでいるように思う。本作を読んで、改めてそういう伝説を掘り下げてみたくなった。地方の妖怪について調べると、昔懐かしい体裁のホームページに行きつくことがある。むしろ、それ自体が伝説や妖怪の一部なのかもしれない。


◆ 多々良と沼上

本作で印象的だったのが、多々良と沼上という二人の登場人物。
『塗仏の宴』に登場したときは、「誰だこいつ?」とモヤモヤしたが、ようやくその思いが供養された。

写真もあって、解像度がグッと高まった。
早口の巨漢……すごい圧を感じる。

沼上が多々良に対して「死ねばいいのに」ぐらいのことを平然と思っているのが面白い。
木乃伊にされそうになったり、本島ぐらい酷い目に遭っていて、彼もなかなかの苦労人だ。というか、日本に即身仏があることを知らなかった。一生に一度くらいは見てもいいかもしれない。ただし、巡回博覧会ぐらいの距離感がちょうどよさそう。


◆ 読後の余韻

身近な土地の伝説が題材になっている話に出会うと、どうしても個人的な記憶や体験と結びついて、より深く楽しめる。
百器ほど軽薄ではなく、陰ほど陰鬱でもない、総じて読みやすい一冊だった。

次は『百鬼夜行 陽』を読み進めます!